いとちゃんの物語 第一章 第二話

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病名を検索した夜

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家に帰ってからも、病院で聞いた言葉は、頭の中から離れてくれなかった。

「手足の骨が短い」

「骨のバランスが少し気になる」

まだ何も決まったわけではない。

成長には個人差があるし、今の時点では分からないことも多い。

先生はそう説明してくれていたはずなのに、私の中では、もう何か大変なことが起きてしまったような感覚になっていた。

家に帰っても、朝までと同じ景色には見えなかった。

夫は相変わらず落ち着いていた。

いつも通り着替え、いつも通り家の中を動き、いつも通り話している。

私はそんな夫の様子を見ながら、少しずつ苛立っていった。

どうしてそんなに平気でいられるの。

自分の子どものことなのに。

私はこんなに怖いのに。

夫が何も感じていないわけではないことくらい、本当は分かっていたのかもしれない。

でも、そのときの私は自分の不安でいっぱいで、夫の表情の奥まで考える余裕がなかった。

食事を目の前にしても、あまり食欲が湧かなかった。

何か口に入れようとしても、すぐに先生の言葉が浮かんできた。

お腹に手を当てると、赤ちゃんが動いた。

そのたびに少し安心した。

でも、その安心は長く続かなかった。

私はスマートフォンを開いた。

病院で聞いた言葉を、一つずつ検索窓に打ち込んでいった。

一つの記事を読むと、また分からない言葉が出てくる。

その言葉をさらに検索する。

すると、また別の病名にたどり着く。

症状。

遺伝。

合併症。

手術。

成長。

将来。

最初は、知れば安心できると思っていた。

でも、読めば読むほど、私はその一つひとつをお腹の中の我が子に当てはめるようになっていった。

まだ何も決まっていない。

それでも私は、

「もしこの病気だったら」

「もし歩くことに何か問題が出たら」

「もし目や耳にも症状が出たら」

「学校に行くようになったらどうなるんだろう」

「友達はできるのかな」

「大人になったら、どんな生活になるんだろう」

と、まだ生まれてもいない娘の何十年も先まで想像していた。

今思えば、私は目の前の赤ちゃんを見ているのではなく、自分の頭の中で作り上げた未来ばかりを見ていたのだと思う。

でも、そのときは、それに気づかなかった。

怖くなって、私は夫に話した。

「もしこういう病気だったら、どうする?」

夫は少し考えてから、

「そのときになってみないと分からないよ」

と言った。

その言葉が、私は嫌だった。

「でも、心配じゃないの?」

と聞くと、夫は、

「先のことなんて分からないし、分からないことを今からずっと考えても仕方ないんじゃない?」

と答えた。

正しいことを言っているのかもしれない。

今になれば、夫の言葉の意味も少し分かる。

でも、そのときの私は、正しい答えなんて求めていなかった。

欲しかったのは、

「怖いよね」

「心配だよね」

「一緒に考えよう」

そんな言葉だった。

私は、不安を半分持ってほしかった。

夫にも同じように取り乱してほしいわけではなかったし、同じように眠れなくなってほしいわけでもなかった。

ただ、自分だけが暗い場所に取り残されているような感覚から、少しだけ救ってほしかった。

でも夫は、

「まだ何も決まってないんだから、考えなくていいよ」

と言った。

そして、まだ起きていないことを想像して泣き続けることも、お腹の赤ちゃんにとって良いことではないんじゃないか、と言った。

その言葉に、私は余計に腹が立った。

私は心配したくて心配しているわけではない。

泣きたくて泣いているわけでもない。

考えないようにできるなら、とっくにそうしている。

怖いものは、怖かった。

私たちは言い合いになった。

夫の言っていることが正しいかどうかではなく、気持ちを分かってもらえないことが苦しかった。

そして、私は泣いた。

お腹の中の赤ちゃんのことを考えて泣いているのに、泣いている自分が赤ちゃんに悪いのではないかと思うと、さらに苦しくなった。

何をしても間違っているような気がした。

今振り返ると、夫は夫で、この子と私を守ろうとしていたのだと思う。

私と同じように未来を怖がるのではなく、まだ起きてもいないことに、今の私たちの生活まで支配させないようにしていたのかもしれない。

もし夫まで一緒になって、

「どうしよう」

「きっと大変なことになる」

「この先どうなるんだろう」

と怯えていたら、私たちは二人でさらに深いところまで沈んでいたかもしれない。

もしかしたら、まだ何も分からない段階で、この子の存在そのものを「怖いもの」として見てしまっていたかもしれない。

あの頃の私は、そんなふうには考えられなかった。

ただ、夫の言葉が冷たく感じた。

私だけが怖がっているように思えた。

私だけが、この子の未来を心配しているような気がした。

でも、お腹の中の赤ちゃんは、そんな私たちのやり取りとは関係なく、いつも通り動いていた。

検索画面には、知らない病名が並んでいた。

画面を閉じても、その言葉は頭から消えてくれなかった。

でも、スマートフォンを置いて、お腹に手を当てると、この子は今ここにいた。

私が何十年も先の未来まで想像している間にも、この子は今、この瞬間を生きていた。

そのことに、私はまだ気づききれていなかった。

そして妊娠7ヶ月になった頃、私たちは、さらに詳しく診てもらうため、大きな病院へ行くことになった。

知りたい。

でも、知るのが怖い。

そんな矛盾した気持ちを抱えたまま、私たちは次の病院へ向かった。

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